キャンプの晩飯

「例えば、ニホンザルが5匹でやることを、チンパンジーなら1匹でやることが出来る。ニホンザルがカレーをみんなでわいわい作るためには最低でも25匹必要だが、チンパンジーは5匹で作ることが出来てしかも後片付けが楽なように調理中から小まめに洗い物したりする。でも、俺はそんなことしないでもいいから25匹でわいわいやった方が楽しい派だ。キャンプの晩飯ってそういうものだ」
 キャンプ名人さんが初っ端にぶった演説は、僕達の心を飯ごう炊飯した。始めチョロチョロ中パッパ、の中パッパってなんだろうと思いながら、僕達はいつの間にか、運動神経のいい芸人がスポーツ選手とかに混じってアスレチック的なことにチャレンジする時のようにやる気まんまんになっていた。
「それを脳みそに叩き込んだら、みんなでニンジンを切ろう」
 キャンプ名人さんの一言で、僕達はわいわいとニンジンを切り始めた。それは確かに、とても楽しかった。チンパンジーもみんなでやれよ、と思った。僕達は次々と、わいわいと野菜を剥いたり切ったり鍋に投入したりの大盛り上がりだった。
 カレーがぐつぐつと煮えて、準備が整った。全員にカレーが配られて、サラダにデザートもついて、僕達はキャンプ名人さんを見た。キャンプ名人さんが、わかった、と言うように立ち上がり、僕達は手を合わせて注目する。
「いただきます!」キャンプ名人さんが大きな声で言った。
「いっただっきまーっす!」
 僕達は、まずデザートのバナナにかぶりついた。25匹のニホンザルが、お約束のようにバナナにかぶりついた。拍子に、カレーの皿をひっくり返した者もいた。ふと見ると、チンパンジーのキャンプ名人さんもバナナにかぶりついていた。僕はでも、まあ楽しかったからよし、と思った。