いざ仙台

 高速道路の上り線と下り線、その間に設けられた中央分離帯を飾るわずかな緑で暮らすのがご存知俺たち「時速120キロの狭間でアリ」だ。
 なけなしの緑で生きるには、校庭の片隅で小学生におびえながら生きるのとは別の種類の根性がいる。鋭い太陽光線を浴びた灼熱のコンクリートが上りから下りから熱を発散させ、大型犬ですら窓から顔を出せないスピードでキャンプに出かける4WDがそれをかき混ぜる。まさに上り線と下り線の石焼ビビンバや。俺たち自身、こんなところで暮らすのは、関税自主権を回復させることぐらいみんなから拍手をもらえることだと思っている。
 俺たちは時々、縁石に立って下り線を眺めた。自動車がシュンシュンシュンシュン通り抜けるこの道は、はるか仙台まで続いてる。そう思うことで俺たちは小さな体に夢を充填させることが出来る。ちっぽけな俺たちだけど、それでもこの道は、俺たちと自動車のために二十四時間ひらかれている。時速120キロで夢を運ぶ、それが常磐自動車道だ。
 仙台。それは涼しい気候と萩の月。笹かまぼこにベガルタ仙台東北楽天ゴールデンイーグルスときて、最終的に牛タンがそこには待っている。それをこの目で見ることなく、この触覚で感じることなく、俺は高速道路の真ん中で、なんでこんなとこ住んでるんだ、という思いを抱いてこの世界から消えていくのか。俺たちはあきらめきれなかった。でも、どうしたら。
「以上でプレゼンを終わります」
 まだ生まれたばかりの頃に、虫は現地で分解してから運んだらどうか、というアイデアを出した時から一目置かれている天才アリ、コンピュータペンシルのプレゼンは、夢物語だった俺たちの仙台行きを現実的なものとした。女王様が賛同してくださり、俺たちは仙台へ向かうことを決めた。
「仙台ナンバーを探してください」
 コンピュータペンシルの指示通り、俺たちは帰省ラッシュの渋滞で足止めを喰らった下り線の自動車のナンバーを調べてまわる。普段のアリ的な役割分担を無視して、俺たちは探した。仙台ナンバーを血眼で探した。結構あった。
「どれに乗り込むんだ!」
「その10トントラック!」
 コンピュータペンシルが叫ぶ。でかいトラックはごちゃごちゃしていてタイヤがいっぱいあって乗りやすそうなことを、コンピュータペンシルは一瞬で判断したのだ。さすが、どこかに行く時はちゃんと一列に並んだらどうか、と言って俺たちの生活と他人からのイメージを一変させただけのことはある。
「乗り込め!」
 俺たちは停止しているタイヤに噛み付いた。そのタイヤは東京のにおいがした。何十万かの回転に耐えた時、俺たちは宮城県民になっている。そう信じてる。