宇宙の向こう側
宇宙空間広しと言えども、土星の裏からやってきた流星野郎、スターダストワルツほど速い流星はいないんじゃないかと思われた。
スターダストワルツは友達と並んで宇宙を超スピードで流れている最中も、それを超える超・超スピードで動き出して五秒間だけいなくなったかと思えば、
「今、宇宙の向こう側見てきた」
とドラゴンボールの孫悟空みたいなことを言うことで知られている。スターダストワルツの顔というかなんというか、星全体を囲っているオーラ、スーパーサイヤ人でいうとシュオンシュオンいってるとこには、見たこと無い毛くずとか小石とかが混ざっていたし、そっちの方が夢があると思ったので、みんなはそれを信じることにした。実際、スターダストワルツの速度は常軌も光年も逸していたので、ホーキングよりも宇宙のことを知っているのではないか、語るのではないかという期待はみんなの胸にあった。
みんな、宇宙の向こう側に何があるのかを知りたがった。問い詰めるたび、スターダストワルツはご自慢のブーストで何億光年の彼方へひとっ飛びしてしまったが、ある日、フィリピンが頑張って打ち上げた人工衛星にぶつかって負傷して満足に動けないところを、沢山の流星たちにつかまった。
「スターダストワルツ、なあ、宇宙の向こう側には何があるんだ」
「ビッグ・バンはまだ広がってるとか聞くけど、お前はその向こうに行ったんだろ」
スターダストワルツは重い口を開いた。
「あそこには、自由があった」
「自由が!」
みんなは沸き上がった。その瞬間、みんなの星の重力は喜びで二倍ぐらい強くなったといわれている。
「そして、寒かった」
「寒さが!」
「ヒットラーがいた」
「ヒットラーが!」
「手塚先生もいた。他にも沢山いた」
「じゃあ、そこはある種の殿堂入り空間になっているってことか!」
他にどんな人がいるのか、みんなは聞きたがった。自分のお気に入りの有名人は宇宙の外側にいたのか、それを知りたがった。
「三船敏郎は?」
「いた」
「アイルトン・セナは?」
「いない」
「いないんだ!」
「トーベ・ヤンソンは?」
「いた」
「織田信長」
「いた」
「豊臣秀吉」
「いない」
「基準がつかめねえ!」
「フランツ・カフカは?」
「いた」
「スコット・フィッツジェラルドは?」
「いない」
「ジャン・コクトー」
「いた」
「マーク・トウェイン」
「いた」
「ルイ・アームストロング」
「いた」
「ジョン・レノンは?」
「いた」
「ジョージ・ハリソン」
「いた」
「エルヴィス・プレスリーは?」
「いた」
「キース・ムーンは?」
「いない」
「ジョン・エントウィッスルは?」
「いた」
「ちょっとおかしくないか?」
「そんなことない」
「カート・コバーンは?」
「いない」
「フランク・ザッパは?」
「いた」
「スモーキー・ロビンソンは?」
「死んでない」
「ジム・モリソンは?」
「いない」
「スティーヴ・マリオット」
「いた」
「ジミ・ヘンドリクス」
「いない」
「円谷英二」
「いた。ゼットンもいた」
「ゼットンも!」
「新マン以降じゃなくて、ウルトラマンに出てきた奴。ゼットン星人の集めたデータに無かった科学特捜隊のペンシル爆弾でやられた奴」
「詳しいな!」
「ナジーム・ハメドは?」
「死んでない。だから死んでない奴言うなよ」
「レフ・ヤシンは?」
「いた」
「マラドーナ」
「死んだら入る」
「ナンシー関は?」
「いた」
「結構査定甘いんだな!」
みんなも、宇宙の向こう側に誰がいるか、自分の胸に聞いてみてね!