割り切る

 スイカもメロンをクリアーして、どこまで割るつもりなんだ。だんだん徐々に徐々に小さくなっていくフルーツをどこまで割っていくつもりなんだ。観衆の視線はその男に釘付けだった。開始前に行われたアンケート「透けなさそうなもの」で2位になった消しゴム(大きめ)を両目に貼り付けられてガムテープで目の周囲をぐるぐる巻きにされた上にアイマスクをした男は、ぐるぐるバット20回をこなして、ゆっくりと歩みだした。ちなみに2位のものにしたのは、まぎれているかもしれないその男側の人間の組織票を回避するためだ。
 観衆は男が前進するところに大きな声をかけた。
 右、右、あー左左、ちょっと、ちょっとだけ左、微調整微調整そうだそこだいけグシャー!
 グレープフルーツを難なく割るというより潰し、飛び散った果汁で海パンいっちょの体をベタベタにしながら男はみんなの方を向いた。
「次だ」
 ざわざわ、ざわざわざわざわ次は桃だ!
 違う違うそこじゃないそこじゃない立ち止まったまま向きだけ左にそうそうそうそこグッシュウ!
 そんな馬鹿な嘘だろ信じられなレモンならどうだ!
 そうそうそんな感じそんな感じうおお奇跡的に一発でいいとこいったもうそのままいっていいよもうそのままいっていいよグドゥッ!
 レモンは割れないけど当たったっていうか割れないもの多すぎだろでもレモンにジャストミートさせるあいつは化けもういっそライチの出番だ!
 違う違ういやそれも違う何か元から違うって感じだから一回下がろうそうそうそう一回下がろうよしそんでそっからちょっと右に向き変えて前前前そういい、いい、もうちょい前そこだ! いい大丈夫だいじょうぶホントだってシャープに真っ直ぐ振り下ろせビシャッ!
「いよいよ次は、ブドウの粒だぞ!」
「ちょっと待て」
 目をふさがれたまま男は声をあげた。
「一粒がフルーツだなんて馬鹿な話あるか」
 おぉ〜という声が誰しもの口から漏れた。
「もう割るフルーツが無いなら、俺がスイカ割りのチャンプだ」
 観衆の中には、そこで初めて、あれスイカって野菜じゃなかったっけ、ということに気付いた者もいたが、だからといってどうということもなかった。ただ、喉に残る痛みと不思議な充実感が心地よく、大きな拍手を男に贈るのだった。