鳥、十四歳

 森を一望できる崖の上に、鳥が二羽いた。
 体を大きく見せれば相手をビビらせることが出来るという動物らしい考え方で鳥類業界を生き抜いてきたハウメニーは、ゴールデンウィークに差し掛かって、一歩先を行かなければならないと判断した。
「もう、羽を広げたり喉を膨らませたりする時代は終わった。これからは」
「これからは?」子分のウッジューが先をうながした。
「新しい方法で体を大きく見せなくちゃならねえ。それは」
「それは?」
「みんなの度肝を抜くような方法で、つまり」
「つまり?」
「『動物奇想天外』よりは、むしろ『世界丸見え』で紹介されるような方法だ。だいたい」
「だいたい?」
「体でかく見せたから強いってどういう論理だよ。バカかよ。あと」
「あと?」
「チョウチョで羽に目玉みたいな模様ついてるやつ、あれもやめろよ。目玉だからなんなんだよ。あと関係ないけど」
「関係ないけど?」
「花とか枯葉とか、そういうのに擬態して寄ってきた虫つかまえるカマキリいるんだけど、それはあれだろ、捕食側がその技使うのは反則だろ。でも」
「でも?」
「俺は好きだけどね」
 接続詞がつかず、ハウメニーの話はそこで終わってしまった。
「結局?」ウッジューは訊いた。
「あ?」
「新しい方法ってなんですか」
「……」
「どんな方法なんですか」
「……」
「ねえ、一体どんな方法なんですか、教えてくださいよ! ねえ、チュン、いいじゃないですか。チュンチュン! もったいぶらないで教えてくださいよ!」ウッジューは興奮して思わずチュンチュン言ってしまった。
「いや」
「いや、じゃなくって、いいじゃないですか! ずるいですよ、チュン、秘密にしてお、チュンチュン、チュンチュンチュンチュン、チュン!」
「ちょ、おい」
「チュン! チュンチュンチュンチュン! チュンチュンったらチュン!」
「おい!」
 その時、ハウメニーの体が三倍になった。ウッジューにはそう見えた。あーっ、これはですね、広げた羽を顔の横に持ってくることで、自分の体を大きく見せているところなんですね。自分の方が強いんだぞ、と、こういうことをアピールしているわけです。
「ひいいいい!」ウッジューは悲鳴を上げて反射的に飛び去った。
 新しい方法を考えるにはハウメニーはあまりにも鳥だった。それから丸一週間飲まず食わずで考えて、大きく見せて相手がビビるならそれでいいじゃないか、ということに気付くぐらいの頭脳だったのだ。でも、反射的に体を大きく見せようとするそんな自分はなんか恥ずかしい、そういう年頃でもあった。