ムカシトンボ
オニヤンマの歌
あれあれ荒れてるグラウンド
サヨナラランナー返ってくりゃくりゃ
あいつの出番がカモンオーライ
そうら飛び出た風より速く
土に整列かけるため 土にケジメをつけるため
あいつのトンボがうなりをあげる
ズザザザザ ズザザザザ
ダイヤモンドは永遠の輝き そうさあいつがいる限り
「さあーて、ファインプレーでもなんでもしろってんだ」
トンボトンボ、トンボの浜岡オニヤンマ
金属が普通よりいっぱいついたスパイクで試合をして他の学校のグラウンドをボコボコにし、部活どころか体育もしにくくすることで知られる大地痛めつけ高校野球部は、一番内野のとこが荒れると言われている六四三のダブルプレーをするなどしてさんざんぱらグラウンドを走り回るついでに勝ちをおさめ、ようやく帰って行った。
「なんてこった……」
「地面が、地面が」
そこかしこに山ができ、削り取られ、最大で八十センチメートルの穴があき、絶対見えちゃいけないコンクリートみたいな部分もところどころにのぞいていた。
「これは維持費でどうのこうの出来るレベルじゃねえよ!」
「照明を設置するか、これを直すか、どっちを取るかだ!」
一年生達は途方に暮れた。こんなにこんなに荒れたグラウンドはお目にかかったことがなかったからだ。一年生達は掘り返された地面を見て、恐竜達が住んでいた頃の地球を思った。ジュラ紀と白亜紀しか知らないあの時代を、子供の頃に憧れたあの時代を、今は悲しみとともに思い出すのだ。
「なにをしょぼくれてるんだい」
膝を突いて呆然とグラウンドを見ていた一年生達の背後にいたのは、同じ一年の浜岡ハマジロウだった。
「浜岡、見ろよこれ」
「どうすりゃいいっつうんだよ」
「恐竜達は絶滅しちまったんだぜ!」
浜岡はざっとグラウンドを見回した。そして背後に倒しておいたトンボのデコボコの波うちの数を確認した。
「十二、十三……いける」
浜岡はそう言うや否やグラウンドの中央部分へ飛び出した。
それからみんなの心は中世ヨーロッパの舞踏会場へ飛ばされたのだった。そこは仮面舞踏会だった。どこかの王女がが参加しているという噂がまことしやかに流れていた。フルーツは食べ放題だった。二十分後、一年生達は「あれおれたち何してたんだ」とつぶやいていた。
次の瞬間、一年生達は目を丸くした。
そこには、朝見たのと同じグラウンドがきらきらと輝いていた。
浜岡は帽子を深くかぶりなおしながらこちらへ帰ってくるところだった。一年生達はそれをただ見つめていた。浜岡が近づいてきた時、ようやく口を開くことが出来た。
「浜岡、全国いけるよ!」
「お前なら絶対に全国にいける!」
「そのトンボで、全国制覇だ!」
浜岡はもうトンボを肩にかけて体育倉庫の方に向かっていたが、そこでクルリと振り返った。クールに、でもさびしそうに笑った。
「トンボがけに全国大会はねえよ」