追悼カート・ヴォネガット

 2007年4月11日、読書戦隊ヨムンジャーは巨大ロボを失った。
「昨日、11日、あいつが死んだ」と、レッドは目の黒いとこを波うたせながら言った。
 レッドに朝一で集められたカラフルな隊員達は顔を見合わせた。
「嘘だろレッド!」
「あいつ特有のいつもの冗談なんだろ!」
「その目の黒いとこどうなってんだよ!」
 巨大ロボ、カート・ヴォネガット・ジュニアさんは、カートさんとヴォネガットさんとジュニアさんが合体してもしくはジュニアさんが合体しなかったりする巨大ロボだ。かなり面白い話を書いて敵がそれを読んでいる間に隊員が鈍器で後頭部を狙って倒してその後ハァハァと大きく息をするという日曜の朝には刺激が強い作戦に不可欠な存在だった。
 レッドは問いかけにも首を振るばかりだった。その拍子に、目の黒いとこから涙が一筋こぼれた。
「なあレッド、カートさんだけでも生きていないのか」
「そうよ。ヴォネガットさんだけでも、ジュニアさんだけでもいいわ」
「目の黒いとこどうなってんだよ! 全体が目なのかよ!」
 レッドはさらに首を振った。
「全部分死んだ」
 グリーンは悲しみのあまり、着ている緑色のボディタイツを引き裂いた。引き裂いて引き裂いて引き裂いてそれをまとめて丸めると、ゴミ箱にたたきつけた。顔に一体化してしまった(呪われた)マスク部分とブーツをのぞいて、日曜朝の放送なのにほとんど裸になってしまった。
「落ち着けよ、ベージュ(元グリーン)」
「これが落ち着いていられるかよ。こんな気持ちは、家族で海へ行ってビーチバレーをしてビーチボールが流されてどっか行っちゃって、しばらくして他の若い兄ちゃんとかが使っているのを見つけたけど、父親に返してもらうよう頼んだら『あれがうちのかどうかわからないから』と言われた時以来だ」
「ベージュ(元グリーン)(のお父さん)……」
 しばらく、誰も何も言わなかった。そんな気まずい時は人は目線を固定したがるので、みんなの目線はベージュ(元グリーン)の一糸まとわぬその体に向けられていた。
「ほくろが多いのはともかく、俺達はどうすりゃいいんだ。なあレッド、どうしたらいいんだ」
 レッドはブルーの質問を聞くと、背負っていたナップザックを下ろした。ゴソゴソ。ゴソ、ゴソソ。ジャーン。
「そ、それは」
「見たことも無いものだわ」
 レッドが取り出した黒いもの。それは。
「プレステ2さんだ。今度はこの小型ロボを使って敵の気を引き、そしていつも通り鈍器を叩きつける」
 隊員達の目は、黒いとこは、レッドをとらえたままだ。明らかに懐疑的な目、懐疑的な黒いとこをしている。
「おいレッド、そんな小さな箱がカート・ヴォネガット・ジュニアさんより面白いって言うのか」
「そんな小箱に何が出来るっていうのよ」
「その箱も黒いけどこの目の」
 レッドは何か言おうとしたイエローを制して、プレステ2さんをテレビに接続した。
 それからの二時間というもの、部屋の中は物凄い盛り上がりだった。飼っている猫はゆりかごの中で眠っていた。
「レッド、こいつは凄いぜ」
「確かに、ある意味ではカート・ヴォネガット・ジュニアさんより凄いかも知れない」
「ただ、この黒いとこが疲れるのが問題だ」
「どうせ敵がやるんだ、知ったことか」
 こうしてプレステ2さんは戦隊の一員となり、隊名もそれとともに変更された。
 次週、プレステ戦隊3ホシインジャーwiiモジャーがいよいよそのベールを脱ぐ!
 終了後、ゲーム脳がかなりやばいらしいという知識をどっかで得たPTAが猛烈に抗議した。
 次の週、レッドはオープニングで目の黒いとこをカメラに向けて言った。
「いいかババアよく聴け。答えをつかむ過程を見なけりゃ、その答えに意味や面白みは存在しない。『タイタンの妖女』を読んでそれを理解したら、最終回まで黙って見てろ」
 そして、隊事務所の倉庫に眠っているカート・ヴォネガット・ジュニアさんの本が映った。最終回とその前の回ではこれがかなり重要になってくるということを匂わせる、子供には難しいシ−ンだ。