新連載について

小説を書くために必ずしも取材をする必要はないと思うが、世界があんまりよろしいもので、風景が話の犠牲になるのに罪悪感を抱くようになり、最近は実際に取材して目にした風景しか小説に書かないようにしている。 取材といっても、ここを舞台にしようと決め…

Sに

(結果はともかく予約投稿されるようになっておりま した) 現代の日本の小説で複数人の会話が描かれることは驚くほど少ない。ほとんどが二人、時に三人で話している。四人はあまりなく、五人以上はまず見ない。ましてや長くは続かない。あとは、四人か五人…

『ちかちゃんのはじめてだらけ』薫くみこ 作/井上洋介 絵

ちかちゃんのはじめてだらけ (シリーズ本のチカラ) 作者:薫 くみこ 日本標準 Amazon 『旅する練習』で第37回坪田譲治文学賞をいただいた。 すごくうれしいのは、自分にとって昔から馴染み深く、理念に共感できる賞だからだが、それはおいおい受賞の関連で…

『ローベルト・ヴァルザーとの散策』カール・ゼーリヒ、ルカス・グローアほか/ 新本史斉訳

ローベルト・ヴァルザーとの散策 作者:カール・ゼーリヒ 白水社 Amazon 「今日ローベルト・ヴァルザーが忘れられた作家のひとりに数えられていないのは、まずもって、カール・ゼーリヒがヴァルザーを気にかけた、という事実のおかげである」(W・G・ゼーバ…

『おジャ魔女20周年記念 おジャ魔女どれみ公式ヒストリーブック TVシリーズから映画『魔女見習いをさがして』まで』

おジャ魔女20周年記念 おジャ魔女どれみ公式ヒストリーブック TVシリーズから映画『魔女見習いをさがして』まで 発売日: 2020/11/02 メディア: 単行本 小説と出版社の関係でいただくことができた。こりゃいいやとペラペラめくってなつかしみ楽しみしているう…

『西條八十集 人食いバラ 他三編』西條八十

西條八十集 人食いバラ 他三篇 (少年少女奇想ミステリ王国1) 作者:西条八十 発売日: 2018/08/18 メディア: 単行本(ソフトカバー) 西條八十は童謡詩人として最もよく知られる。『人間の証明』の「ストウハ」とつながるあの詩も西條八十である。 その手によ…

『案内係 ほか』フェリスベルト・エルナンデス/浜田和範 訳

案内係 ほか (フィクションのエル・ドラード) 作者:エルナンデス,フェリスベルト 発売日: 2019/06/25 メディア: 単行本 最近、あんまり小説を読まないが、これは何度も読み返したし、たくさん書き写した。ピアニストから転身したウルグアイの作家の短編集で…

『ライ麦畑でつかまえて』J・D・サリンジャー/野崎孝 訳

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス) 作者:J.D.サリンジャー 発売日: 1984/05/20 メディア: 新書 あちこち出掛けて、博物館や郷土資料館があると必ず入ることにしている。高校生ぐらいからそうで、知識もまばらだったその頃に見たことなんて実際ほとんど覚…

『声と日本人』米山文明

声と日本人 作者:米山文明 発売日: 1998/02/01 メディア: オンデマンド (ペーパーバック) 何か創作したいと思って、まず人はその創作物から学ぼうとする。映画から映画を、マンガからマンガを、小説から小説を考える。そして、絵画からマンガを、演劇から映…

『海とサルデーニャ―紀行・イタリアの島』D・H・ロレンス/武藤浩史 訳

海とサルデーニャ―紀行・イタリアの島 作者:デイヴィッド・ハーバート ロレンス メディア: 単行本 D・H・ロレンスの小説は長らく読み返していないが、紀行文はよく読む。不死鳥社の全集には四つ収録されていて、それも含めて色んな訳をさがして読んだが、一…

『大江戸飼い鳥草紙 江戸のペットブーム』細川博昭

大江戸飼い鳥草紙―江戸のペットブーム (歴史文化ライブラリー) 作者:細川 博昭 メディア: 単行本 本書はその名の通り、江戸時代の鳥飼いの流行について書かれている。 そもそも江戸時代、鳥は今よりもっと身近な存在であった。森林から断続的に残されている…

『神様がサッカーを変えた』岸田光道

神様がサッカーを変えた 作者:岸田 光道 メディア: 単行本 フィクションの登場人物の名付けというのはよくわからない。 よくわからないから、付け方もその都度ちがっていて、まあでも実際に名前というものはそんな風につけられるのだから、このままよくわか…

『働く男』星野源

働く男 (文春文庫) 作者:星野 源 発売日: 2015/09/02 メディア: 文庫 書かれていること自体がとくべつ面白いというわけではないと言えば語弊があるが、星野源という人間に対する興味を倍増させるほどに文章が光を放っているわけではない。 それでも、自ら「…

『手賀沼周辺の水害-水と人とのたたかい400年-』中尾正己

今は穏やかで、ついでに言うと一時期の日本一汚いという水質も多少は改善されたが、千葉県我孫子市にある手賀沼のあたりは、四百年ほど前から利根川の氾濫による水害に悩まされてきた。 そもそも川というのは自然な水の流れに人が堤防をつくったものでは全然…

『今日を歩く』いがらしみきお

今日を歩く (IKKI COMIX) 作者:いがらし みきお 発売日: 2015/03/13 メディア: コミック いがらしみきおは、15年以上、雨の日も風の日も雪の日も、毎日、家の周囲の決まったコースを歩き続けたという。今も続くものかわからないが、2014年から2015…

どっきりどっきりDON DON!!

旅する練習 作者:乗代雄介 発売日: 2020/12/28 メディア: Kindle版 (ネタバレみたいな要素もあるので、『旅する練習』を読む前に読まない方がよいかもしれません)

でも町に風が吹き

旅する練習 作者:乗代雄介 発売日: 2020/12/28 メディア: Kindle版 感謝といえば、このいまいち目的のわからない長い文章の最後に、今回の旅路を歩いている時、また書いている時に聴いていた宮本浩次への感謝を書いておきたい。 我孫子から鹿島へのルートを…

待ってるね おしゃれして すぐにおいでよ

旅する練習 作者:乗代 雄介 発売日: 2021/01/14 メディア: 単行本 https://tree-novel.com/works/episode/4e10f1331de8b606ab925ba9ab72c64f.html「装幀のあとがき」なんてものを読む機会が来るとは思わなかった。 装幀について何か言ったことはない。全てお…

ズルいこと 大キライ カクゴしなさい

旅する練習 作者:乗代 雄介 発売日: 2021/01/14 メディア: 単行本 慣れ親しんだスパイクやペンは確かに具合がよくて、それでなくっちゃダメだと思える。とはいえ、そもそもスパイクが筆記具が足に手に馴染んだところで、ボールや文章が意のままに操れるわけ…

見て見て、華麗なわざを 腰ぬかすかもよ

旅する練習 作者:乗代雄介 発売日: 2020/12/28 メディア: Kindle版 文芸誌か何かに載せてもらえる以上は完成とせざるを得ないけれど、小説には、入れるつもりはなくともそれを書くという行為のうちに含まれなければならない文章というのが沢山ある(と思って…

とどくのかな? スリルだよ かなり技術いるもんね

旅する練習 作者:乗代 雄介 発売日: 2021/01/14 メディア: 単行本 (結果はともかく予約連投されるようになっております) そんな感じで、人間の営みとは何であるかと考えても何か答えがあるわけではないし、小説になったところで答えではないけれど、考える…

全力じゃなきゃ 見逃しちゃう

旅する練習 作者:乗代 雄介 発売日: 2021/01/14 メディア: 単行本 それというよりは、それを書いていた時のことを、今回については、今回に限った個人的な事情がために書いておきたい。別のところでも何か書いているので、甘くしかかぶらないように。 20…

『トンネル』ベルンハルト・ケラーマン/秦豊吉訳

トンネル 作者:ベルンハルト・ケラーマン 発売日: 2020/09/05 メディア: 単行本 国書刊行会でこのブログの本を出そうと動いていた時だったから、刊行のけっこう前に出ることを知ったと思う。「トンネル」のことを記事で書いたこともあったから、編集者が教え…

『ウォークス 歩くことの精神史』レベッカ・ソルニット/東辻賢治郎訳

ウォークス 歩くことの精神史 作者:レベッカ ソルニット 発売日: 2017/07/07 メディア: 単行本 歩行の歴史――あらゆる時と場所、フィールドにまたがって、歩行をしてきた人間どもの記録だが、人間みな歩ければ歩くのだから、その中で、歩くことに特別な意味を…

『五つ子 その誕生と成長の記録』山下頼充・浜上安司

五つ子―その誕生と成長の記録 (1977年) 作者:山下 頼充,浜上 安司 メディア: - 文學界2020年8月号で、磯﨑憲一郎さんと対談した。 コロナ禍、緊急事態宣言が解かれて少ししてお目にかかるという状況だったが、家から出ない間は、対談準備の本が読めて楽しか…

『二列目の人生 隠れた異才たち』池内紀

二列目の人生 隠れた異才たち (集英社文庫) 作者:池内 紀 発売日: 2008/09/19 メディア: 文庫 本書はなかなか思い出深く、油屋熊八とともに湯布院を温泉地にした中谷巳次郎の話を比喩に借りたこともある。そんな例は山ほどあるが、引用文献のように出すわけ…

『スタジアムの神と悪魔―サッカー外伝』エドゥアルド・ガレアーノ/飯島みどり 訳

スタジアムの神と悪魔―サッカー外伝 作者:エドゥアルド ガレアーノ メディア: 単行本 本書は一時期、久保建英が移動中に読んでいる本として話題になった。本来、みすず書房の本を読むフットボーラーなど存在してはならないからだ。読書家で知られた元レアル…

宇宙船クーデター号 ~絶妙な間とタイミングの天文学的情報量について~

旅するケンタとサクラの目の前に現れた謎の少年! 何を聞いても「それ、うめぇのか?」と繰り返すばかりの野生児と粘り強くコミュニケーションを図ろうとする二人にも、さすがに疲れの色が見え始めるのだった!「これでは埒が明かないな……」「まさか、こんな…

『現代児童文学作家対談5 那須正幹・舟崎克彦・三田村信行 』神宮輝夫

那須正幹・舟崎克彦・三田村信行 (現代児童文学作家対談) 作者:神宮 輝夫 メディア: ハードカバー この毎週日曜8時に更新するようになっている書評だかなんだかで表題になっている本は、一連の考え事が始まるきっかけになった本というだけで、読んでもなか…

『作家の仕事部屋』ジャン=ルイ・ド・ランビュール編、岩崎力 訳

作家の仕事部屋 (1979年) メディア: - 私が好きなのは、該博な知識を駆使した仕事ではありません。私は図書館が嫌いです。図書館ではほとんど本が読めないと言ってもいいほどです。重要なのは後楯となるテキストとの、直接的な、現象学的な接触なのです。私…